最近の読書(2022年11月)

●シェーン・パリッシュ、リアノン・ボービアン、北川蒼訳「グレートメンタルモデル」、サンマーク出版、2022年

 著者のシェーン・パリッシュ氏は元諜報機関勤務で、自己修養メソッドや意思決定手法に関するブログの創設者であり、リアノン・ボービアンしがこのブログの管理と執筆を担当しています。本書の日本語版タイトルには、「グレートメンタルモデル」以外に、「知の巨人たちの『考え方』を一冊で、一度に、一気に学びきる」と記されています。

 本書は、ウォーレン・バフェット会長のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガー氏が「世界の仕組みを理解するため真剣に努力した人間が身につけた」(P6)、「『メンタルモデル』と呼ばれる思考のフレームワークと、それを幅広い『格子構造』に作り上げて問題に取り組むやり方」(P7)についての書物であり、「様々な分野からの知識の集合体であり、世界をよりよく理解するために普遍的に応用できるもの」(P7)とされています。

 「CHAPTER 0 General Thinking Concepts 『知恵』を正しく身につける」では、「『知恵の死角』がもっとも少ない人が有利」(P29)であり、このことは、「ものごとをさまざまな角度から見て問題解決に役立つシンプルなプロセスをみつけ、重要な問題をより適切に解決できるようにすること」(P29)であるとしています。本書が取り上げる「グレートメンタルモデル(最強のメンタルモデル)」(P31)は「私たちがどのように考え、ものごとを理解し、どういった信念を持つようになるのかを導く」(P31)もので、「主として潜在意識下で機能する」(P31)ものです。

その後、このCHAPTERでは、「ものごとを見る『角度』を変える」(P33)、「『つながり』を把握する」(P34)、「『地』に足をつける」(P35)、「『自分の考え』へのとらわれをほどく」(P38)、「シンプルに、とにかくシンプルに」(P43)、「理解を『行動』につなげる」(P44)、「間違った判断をするときほど『疑問』がない」(P45)、「『理解』の構造を知る」(P48)、「『分野』を超えて考え方を広げる」(P56)、「考え方の『質』と『量』を豊かにする」(P59)、「マスターには時間がかかるが、メリットは計りしれない」(P62)といったコンセプトの説明がなされます。「メンタルモデルは、意思決定に時間がかかるのを正当化するためではなく、思い込みを排してものごとを本来あるべき姿で見られるようになるためのものだ。」(P65)

 「CHAPTER 1 メンタルモデル1 地図理論 「抽象」を道具に「現実」をとらえるには?」(P67)では、世の中の縮図としての地図やモデルについての考え方を紹介するとともに、「できる限り正確に活用するためには、次の3つのポイントに注意する必要がある。①現実は究極のアップデートである、②地図は製作者の意図を反映する、③地図は現実に影響を与えることもできる」(P79)と述べています。

 「CHAPTER 2 メンタルモデル2 能力の輪 自分の『能力領域』を理解する」(P89)では、自分の「能力の輪」については「その分野に少なくとも数年は関わり、失敗もいくつか経験していることが必要」(P94)であり、「半端でやめず『深々』と学ぶ」(P97)ために、「好奇心を持って学び、常に自分の『能力の輪』を把握し、現実からのフィードバックを得る」(P99)ことを実践する必要があるとしています。

 「CHAPTER 3 メンタルモデル3 第一原理思考 『根本』を考える」(P117)では、「第一原理思考の目的は、ある状況におけるもっとも本質的な要素を特定すること」(P120)であり、「ソクラテス的問答法」(P122)や「5Why分析」(P123)といった方法があげられます。

 「CHAPTER 4 メンタルモデル4 思考実験 頭の中で『仮説』を試す」(P135)では、「思考実験とは、『ものごとの本質を究明するために用いることのできる想像力の装置』と定義できる。」(P137)とし、思考実験が特に有効な分野として、「①『物理的に不可能なこと』を想像する、②『歴史』を再考する、③『直観的でないもの』を直観的に理解する」(P141)をあげています。

 「CHAPTER 5 メンタルモデル5 二次的思考 先の『先』を読む」(P161)では、「『二次的思考』とは、ずっと先のことを考え、かつものごとを全体的な視点から考えること」(P163)であり、「ある行為の結果からその第二段階として発生する影響は、手遅れになるまで考慮されないことが非常に多い」(P163)としています。この思考法は、「①目先の利益よりも『長期的な利益』を優先する、②自分の意見を上手に主張する『効果的な議論』を構築する」(P169)という2つの用途で有効としています。

 「CHAPTER 6 メンタルモデル6 確率思考 『正確』に見通す」(P181)では、「確立思考とは、数学や論理学のツールを用いて特定の結果が実現する可能性を推定することで、私たちの判断の精度を高める最良のツールのひとつ」(P183)として、「①ベイズ的推論、②ファット・テール分布、③非対称性」(P185)という確率の3つの重要な側面が紹介されます。

 「CHAPTER 7 メンタルモデル7 反転思考 『逆』から考える」(P215)では、反転思考とは、「ある状況に対して、通常思いつく視点の『反対側』からアプローチすること」(P217)としています。この考え方を普段の生活に取りいれるには、「①証明しようとしていることが正しいかどうかを仮定し、『それを確かめるために何が必要か』を考える。②ゴールを直接目指すのではなく、『何を避けるべきか』を深く考えたうえで、どのような選択肢が残るのか確認する。」(P218)という2つのやり方があるとしています。

 「CHAPTER 8 メンタルモデル8 オッカムのかみそり とにかく『シンプル』に」(P233)では、「シンプルな説明は複雑な説明よりも真実である可能性が高い。これは、論理学と問題解決に関する古典的な命題『オッカムのかみそり』の中心にある思想だ。」(P235)とされています。この「オッカムのかみそり」は、「同じくらい説得力のある2つの考え方がある場合に、単純な解決策で十分である可能性が高い、と考えよう」(P237)という使い方を推奨しています。

 「CHAPTER 9 メンタルモデル9 ハンロンのかみそり 『思考過剰』を避けよ」(P251)で取り扱う「『ハンロンのかみそり』とは、相手の行為が単なる愚かさで説明できるのであれば、必要以上に悪意を想定しようとしてはいけないという考え方だ。」(P253)つまり、「何かがうまくいかなかったときに相手に悪意があったからだと考えないようにすることで、機会を逃して終わることなく、別の可能性を探るようになる。」(P253)のである。

 本書で取り扱われている「メンタルモデル」は、単なる知識だけでなく、技術や態度・姿勢といった内容を含むものです。CPAPTER 0で述べられていたように、「主として潜在意識下で機能する」(P31)よう自分自身の身につけることが期待される能力です。私たちが「知の死角」(P29)をなくす上での「考え方」を取りまとめた大変有益な書籍と言えるでしょう。

【目次】

はじめに 私が「グレートメンタルモデル」に気づくまで

CHAPTER 0 General Thinking Concepts 「知恵」を正しく身につける

CHAPTER 1 メンタルモデル1 地図理論 「抽象」を道具に「現実」をとらえるには?

CHAPTER 2 メンタルモデル2 能力の輪 自分の「能力領域」を理解する

CHAPTER 3 メンタルモデル3 第一原理思考 「根本」を考える

CHAPTER 4 メンタルモデル4 思考実験 頭の中で「仮説」を試す

CHAPTER 5 メンタルモデル5 二次的思考 先の「先」を読む

CHAPTER 6 メンタルモデル6 確率思考 「正確」に見通す

CHAPTER 7 メンタルモデル7 反転思考 「逆」から考える

CHAPTER 8 メンタルモデル8 オッカムのかみそり とにかく「シンプル」に

CHAPTER 9 メンタルモデル9 ハンロンのかみそり 「思考過剰」を避けよ

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