前回、本書(『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』汐見稔幸、河出新書、2021)の第2章までを紹介しました。今回は、引き続き第3章以降をみていくことにしましょう。
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「第3章 『学び』と『教養』」では、まず最初に「学び」の定義を示し、その具体的内容を示すとともに、「教養」のあり方や今後の教育のあり方について述べられています。
「『学び』とは、脳の中に情報処理の回路が新しくできること」(本書P86)であり、これは「新しいことを知る」と「新しいスキルを身につける」ことと置き換えることができるとしています。
「『新しいことを知る』つまり、」新しい知識を得る、あるいはその知識を組み替えて何か新しくみえてくることを、私たちは『わかる』と呼んでいます。」(本書P87)
この「わかる」は、「1.言葉・名前を知る」、「2.対象の属性を知る」、「3.現象の背景にある法則を知る」の3つのレベルに分けられるとし、それぞれについて詳しい説明がなされています。
著者はここで、「教養とは何か」について触れています。「日本人の多くは、『知識がたくさんあること』を教養と思いがち」(本書P98)ですが、これは朱子学の影響があるかもしれないとし、「このような『教養』の使い方は、実は日本独自の使われ方なのです。」(本書P100)としています。
そして、3つの教養論「①分化した知識をつなぎ直す」(本書P100)、「②関心の発展システム」(本書P102)、「③全体との関係で自分を位置づける」(本書P103)を踏まえ、「教養とは、いろいろな知識をより上位の知識とつなげていこうとする姿勢」(本書P106)としています
その後、わが国の明治時代における教育制度の導入の経緯に現在にまで至る問題の萌芽があり、「人はなぜ学ぶのか」という原点に立ち返ることの重要性を指摘されています。
「『学び』は本来、苦しいものではありません。」、「『学び』は喜びなのです。」(本書P119)、「新しいことを知る喜びを教育に取り戻したい。」(本書P123)、著者の指摘に共感を覚えます。
「第4章 『学び』は体験から始まる」では、「どのように学ぶのか」(本書P126)をテーマにとりあげています。
最初にアクティブ・ラーニングが紹介されたのち、2017年に改定された新しい学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」と表現された3つの学びを詳しく説明しています。そして、読書をする際の「信じて疑う」という態度の大切さ、哲学者ショーペンハウアーの読書についての文章、音読と黙読、「かたる」ことの復権の必要性、語義と意味、など、学びに関わる数多くの視点が繰り広げられています。
「第5章 『学び』を支えるための教育」では、「教育にはどんなことができるのか」(本書P176)をテーマに取り上げています。
現在世界の学校教育で重視されているのは、「『認知的スキル』である読む力、書く力、計算力、批判的思考力、問題解決能力、創造的思考力などに加え、『非認知能力』とも呼ばれる『社会・情動的スキル』が特に注目されています。忍耐力、自制心、レジリエンス、責任感、好奇心、精神的な健康(心身のウェルビーイング、すなわち気持ちに不安がなく安定していていろいろなことに前向きになれる状態を確保する力)などです。」(本書P177)
「自分に合った勉強法を見つける」、「メソッドを創り出せる」、「体験知」の重要性、心理学者ジャン・ピアジェの発達段階、テクノロジーではなく原理を学ぶことの重要性、「lessonからstudyへ」など、示唆に富む話題から多くのことを考えさせられました。
最終章である「第6章 『学び』は続くよ、どこまでも」では、「心にとめておきたい大切なこと」(本書P220)が述べられています。
「全ては、ひとまず合理的に説明している仮説にすぎない」(本書P222)、「もともとあった仮説に対して、『ちょっと違う』と感じたら、『それはなぜか』と考え続け、自分なりに納得のいく意味の世界をつくりだしていくことで、新しい仮説ができる。」(本書P224)、「学びが起こるきっかけとなる『問い』に寄り添う」(本書P226)、「学びの個別化と共同化の原理」(本書P230)、さらには学校の就学時間や学びの場の多様化、教師でない人による教育など今後の学びに関わる様々なアイディアや事例が紹介されています。
21世紀において、新たな「学び」を実現する仕組みを作り上げていく必要があります。このためには、「何のために人は学ぶのか?」という本質的な問いを考え続けながら、それぞれの立場で実践を積み重ねていくことが求められます。
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