【調べてみた】1920年生まれの人の実際の平均寿命は何歳だったか?①

 2020年はわが国で初めて国勢調査が行われてからちょうど100年目でした。そのことを思い出したときに、ふと、「1920年に第1回の国勢調査を実施したのなら、この年の性・年齢別の人口がわかるはずだ。これに人口動態統計による性・年齢別死亡者数がわかれば、1920年生まれの人の実際の寿命が計算できるのではないか?」と思いました。

 それでは、この疑問についてこれから以下の事柄について調べてみます。

① 寿命を計算するための「生命表」の基本

② 寿命を計算するために必要なデータの確認

③ ある年次に生まれた人の寿命の計算の実績

●寿命を計算するための生命表について、その基本を確認してみました。

 寿命を計算するには、生命表を用います。

 まず初めに、ネットで使えるいくつかの辞典より生命表に関する基本的な事柄を調べてみました。対象となったのは、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(文献1)と「疫学辞典(第5版)」(文献2)でした。

 生命表は、1662年にジョン・グラントが人間の寿命の分布を客観的に記述し、1693年にエドモンド・ハレーにより生命表の原型が発表されました。そして、1815年にイングランドにおいて,年齢別人口と死亡のデータに基づいた,最初の保険統計用の正確な生命表が発表されました。

 生命表には、観測対象や使用目的等から以下の4種類があるようです。(ただし、これは2つの辞典から整理したもので、学問分野により異なる分類方法があるかもしれません。)

① 現在生命表(current life table)/期間生命表(period life table)

 一般に生命表と呼ばれるもの。ある特定の短い期間の人口集団での年齢別死亡経験を統合したもの。

② 世代生命表(generation life table)/コホー卜生命表(cohort life table)

 同じ時期に生まれた個人の集団(コホー卜)の実際の生存経験を示したもの。その作成には100年近くの期間が必要。

③ 臨床的な生命表

 曝露歴や治療歴によって分類された個人のグループ(コホート)の帰結経験を記述するもの。

④ 経験生命表

 全国民ではなく、一部の統計をもとに作成される生命表。一例として、民間生命保険会社が作る「生保標準生命表」。

 本記事を書くきっかけとなった「1920年生まれの人の平均寿命を計算する」ためには、1920年生まれの人の「世代生命表/コホート生命表」を作成することが必要になります。

 1920年の現在生命表で計算される平均余命(0歳平均寿命)は、1920年の年齢別死亡率が続くと仮定した場合に、今後何年生きられるかを計算するものです。1920年生まれの人の実際の平均余命は、その年生まれの人のある年齢の時の実際の死亡率に基づいて計算するため、100年以上の期間の年齢別死亡率のデータが必要となります。

 具体的に、生命表を作成するにはどうしたらよいのでしょうか。一般に使われている生命表(現在生命表/期間生命表)は、公表されている生命表に作成方法・計算方法は記載されています。今回は、世代生命表/コホート生命表を作成するため、作成方法・計算方法や使用データの取扱い等について教科書等で確認が必要です。

 ネット書店で検索してみると、山口喜一・南條善治・重松峻夫・小林和正編著「生命表研究」(古今書院・1995年・A5 版・332P)という本が見つかりました。この本の書評(文献3)によると、「本書は生命表に関する秀れた概説書の決定版」と評されています。特に、第1章の「生命表の概念と基本原理の解説」、および第2章の「生命表の簡略作成法」は、「人ロ研究者必見のリーディングス」と評価されている書籍でした。実際に世代生命表/コホート生命表を作成する場合には、本書でデータの取り扱いや計算方法を確認しながら実施する必要があります。

【ここまで調べてきて】

 生命表の原型を発表したエドモンド・ハレーとは、あのハレー彗星の軌道計算を行った天文学者のハレーでした。私は、中学生まで天文が大好きな少年でした。お小遣いをためて買った反射望遠鏡で天体観測したり、天文雑誌の写真を夢中になって眺めていたころを思い出しました。さらに、ネットサーフィンを続けていたら偶然にもハレーが執筆した1693年の論文の複写(文献4)を見つけることができました。かの有名なハレーの300年以上前の論文に出会えて、ちょっと感動してしまいました。

【文献】

1.フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「生命表」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E5%91%BD%E8%A1%A8(2022年1月3日閲覧)

2.Miquel Porta 編、日本疫学会訳「疫学辞典(第5版)」財団法人日本公衆衛生協会、2010、 

日本疫学会のホームページ上で公開されています。

https://jeaweb.jp/files/activities/jiten_rev20210818.pdf(2022年1月3日閲覧)

3.河野 稠果「書評 山口喜一・南條善治・重松峻夫・小林和正編著『生命表研究』(古今書院・1995年・A5 版・332P)」,人口学研究(第19号),66,1996.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jps/19/0/19_KJ00009385505/_pdf/-char/ja(2022年1月3日閲覧)

4.An Estimate of the Degrees of the Mortality of Mankind, Drawn from Curious Tables of the Births and Funerals at the City of Breslaw; With an Attempt to Ascertain the Price of Annuities upon Lives. By Mr. E. Halley, R.S.S. Philosophical Transactions (1683-1775) Vol. 17 (1693), pp. 596-610 (15 pages)

https://www.jstor.org/stable/101946?seq=1#metadata_info_tab_contents(2022年1月3日閲覧)

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