●三森ゆりか「ビジネスパーソンのための『言語技術』超入門 プレゼン・レポート・交渉の必勝法」中公新書ラクレ、2021年
著者は、「言語技術」を学校教育、企業研修、スポーツ分野での実践を行ってきています。本書は、言語技術のノウハウを紹介している書籍です。
言語技術(Language Arts)は、「英語をはじめとする欧米言語圏でごく当たり前に母語教育として指導されるものであり、多くの国々がその内容や方法を共有する。」(P23)、「それは文字から語彙、綴り方、文法、そして聞き方、話し方、読み方、書き方、考え方までを包括的に含む、言葉を操るためのすべての技術の総称である。これは、古代ギリシャ発祥のイソクラテス・メソッドに端を発する言葉の効果的な利用を目的とする方法であるため、ギリシャ文化の恩恵を受けた欧米やその周囲の言語文化圏に影響を与え、長い年月の間に体系化され、現在に至っている。その結果、世界の多くの国々で母語教育のカリキュラムとその内容がほぼ共有されている。」(P25)ものです。
言語技術の目標は、「①自立してクリティカル・シンキングができるようにすること、②①を用いて自立して問題解決する能力を育成すること、③考えたことを口頭・記述で自在に表現できるようにすること、④自国の文化に誇りを持つ教養ある国民を育てること」(P29)とされています。
言語技術は、その内容や方法が個別に紹介されるケースが多く、そのため、全体の言語技術の中での位置づけや他の内容や方法との関連が良く理解できていませんでした。本書の表1-1言語技術の目標(P29)、表1-2言語技術の概念チャート(P32)、表1-3ドイツの母語教育の体系(P33)をみることで、言語技術の全体像や個々の内容や方法の相互関係を理解することができました。例えば、クリティカル・シンキングは、論理的思考、分析的思考、多角的思考という3つから構成されること、クリティカル・シンキングの次に「創造的思考(Creative thinking)」があること、などがあげられます。
また、言語技術のそれぞれの内容や方法についても、新たに気づかされるような指摘も多く、私自身、自らの日常生活や職業上の場面での言語技術を見直すヒントが得られました。
はじめに
第1章 言語技術=グローバルスタンダードな母語教育
第2章 対話 -質問を発しながら対話を展開する-
第3章 説明 -わかりやすく説明を組み立てる-
第4章 記述の形式 パラグラフ -報告・連絡・相談の基本の型を身につける-
第5章 絵の分析 -「見る」から「観る、観察する」へ-
第6章 テクストの分析 -文字情報から証拠を集める-
第7章 漫画の分析 -高度な分析力で人生が変わる-
終 章 対話に戻る -さらに多彩な活用方法へ-
おわりに
●マイケル・サンデル「実力も運のうち 能力主義は正義か?」早川書房、2021年
著者のマイケル・サンデル氏はハーバード大学教授で政治哲学を専門とされています。本書の英語のタイトルは、“The Tyranny of Merit. What’s Become of the Common Goods?”で、最初の部分を直訳すると「メリットの専制」です。
本書は、「メリトクラシー」が社会に与えてきた影響について、歴史的背景を踏まえつつ現在の様々な分野に関して言及しており、大変示唆に富む著作です。各章において語られる様々な事象と洞察からは、多くのことを考えさせられる著作でした。
本書の結論で書かれていた次の言葉は、私たちはこれからも考え続けていくことが重要だと感じました。
「機会の平等は、不正義を正すために道徳的に必要な手段である。とはいえ、それはあくまでも救済のための原則であり、善き社会にふさわしい理想ではない。」(P318)、「機会の平等に代わる唯一の選択肢は、不毛かつ抑圧的な、成果の平等だと考えられがちだ。しかし、選択肢はほかにもある。広い意味での条件の平等である。」(P319:下線は筆者)
なお、解説で本田由紀教授は「merit」の意味内容の英語と日本の違いや混同について注意を促しています(英語の「功績」は顕在化し証明された結果であるのに対し、日本語の「能力」は人間の中にあって「功績」を生み出す原因である。)。そして英語圏における「メリットの専制」よりも日本における「能力の専制」による問題の方が根深いと警鐘を鳴らしています(P332)。この点は日本語で本書を読んだ読者として、十分に留意しておく必要があることがらです。
序論-入学すること
第1章 勝者と敗者
第2章 「偉大なのは善良だから」-能力の道徳の簡単な歴史
第3章 出世のレトリック
第4章 学歴偏重主義-容認されている最後の偏見
第5章 成功の倫理学
第6章 選別装置
第7章 労働を承認する
結論-能力と共通善
●岸見一郎「怒る勇気」河出新書、2021年
著者は哲学者であるとともにアドラー心理学の研究にも取り組まれており、ベストセラーとなった「嫌われる勇気」や「幸せになる勇気」(共に古賀史健氏との共著)でも知られています。
本書はいわゆる「怒ること」を推奨するものではありません。著者は人間関係において叱ることや怒ることには否定的な立場にあります。本書が取り扱っているのは「公憤」であり、これは、「気分的で感情的な怒りである『私憤』とは違って、不正に対する怒り、人間の尊厳を侵害された時の怒りである。人がこの怒りを忘れるとき、世の中の不正はいよいよ蔓延ることになる。」(P8)としています。
理不尽な現実への主な対処法として、(1)何もしない、(2)自分を世界に合わせる、(3)世界を変える、という方法について述べたのち、著者の立場として「『おかしいのではないか』と主張しなければ変わらない」(P44)としています。
理不尽にしか思えない現実を前にしたときに、なぜ声をあげないのか、何故行動に移さないのか、という問いに対し、第2章では我が国特有の「空気を読む」、「忖度」等について、第3章では「道徳」、「規則」、「同調圧力」、「当事者として考えること」等について、第4章では「公憤-知性的な怒り」(P153)について、思索を巡らせていきます。
そして最後の第5章では「不正が行われたり人間の尊厳が傷つけられたりするようなことがあった時に、…、『公憤』としての怒りを向けなければならないことを見てきたが、その怒りは感情的な怒りではなく、実際には言葉を使って主張するということである。しかも、その言葉による主張は一方的な訴えであってはならない。こちらは論理的に主張しなければならないが、相手の主張も聞き、話し合いを、『対話』をしなければならないということである。」(P171)とし、「対話」を通じた問題解決のあり方等が述べられています。
様々な問題が発生している現状において、私たちがいかに社会の問題に向き合い、その解決に向けて取り組んでいくべきか、を考えさせてくれる書籍です。
第1章 理不尽な現実に抗せよ
第2章 空気はない
第3章 圧力に屈するな
第4章 怒りを忘れるな
第5章 対話が世界を変える
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