リテラシーを身につけるために ③ 目的と意義・学ぶべき内容の全体像

 前回の記事はこちら↓

 リテラシーを身につけていく方法について、金融リテラシーを例に考えていきます。

 金融リテラシーについては、前回も紹介したように、金融広報中央委員会「知るぽると」(https://www.shiruporuto.jp/public/)というサイトに様々な情報が掲載されていることを紹介しました。

 本稿では、金融リテラシーに係る政策の動向を踏まえて、自身が学ぶ目的・意義、学ぶべき内容の全体像、を把握したいと思います。なお、ここでの記述にあたっては、金融庁金融研究センター「金融経済教育研究会報告書」2013年4月(文献1)を参考にしています。

●金融リテラシーに係る国の政策動向

 わが国における金融経済教育は2000年6月の金融審議会答申で重要な施策の一つとして位置付けられました。その後、ペイオフ全面解禁前の2005年3月に、金融庁に「金融経済教育懇談会」が設置され、「金融経済教育に関する論点整理」がとりまとめられました。

 2007年のサブプライム問題から発生した世界金融危機により、利用者が金融に関する知識を身につけ、適切に行動することの重要性が再認識されました。また、OECD(経済協力開発機構)やG20等の場でも金融経済教育の重要性について議論されました。

 このような状況を踏まえて、わが国では2012年に金融庁金融研究センターに「金融経済教育研究会」が設置されました。

 この報告書では、「金融リテラシー」をOECD 金融教育に関する国際ネットワーク(INFE(International Network on Financial Education))の定義である「金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には金融面での個人の良い暮らし(well‐being)を達成するために必要な金融に関する意識、知識、技術、態度及び行動の総体」と同様の意味で用いています。

 そして、「今後の金融経済教育の進め方について、知識の習得に加え行動面を重視するとともに、最低限習得すべき金融リテラシーを明確化し、関係者で共有を図るべき」(文献1)といった観点から報告書がとりまとめられました。

 以上のように金融リテラシーは、国際的にも各国国民が身につけるべきものであり、わが国だけの問題でないことが理解できるかと思います。私たちに求められる金融リテラシーは、「今後、これらの内容はすべての国民が身についていることを前提とした社会になっていくよ」といったメッセージと考えられます。

 また、リテラシーの内容については、「金融に関する意識、知識、技術、態度及び行動の総体」とされており、単に知識があるだけではダメであることをしっかりと認識しておく必要があります。

●金融リテラシーを学ぶ目的・意義

 金融経済教育の意義・目的は以下の3つがあげられています。(文献2より抜粋)

(1)生活スキルとしての金融リテラシー

 社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送っていくためには、生活設計の習慣化と金融商品を適切に利用選択する知識・判断力が重要である。

(2)健全で質の高い金融商品の供給を促す金融リテラシー

 利用者の金融商品を選別する目が確かになれば、より良い金融商品の普及も期待される。

(3)我が国の家計金融資産の有効活用につながる金融リテラシー

 家計の中長期の分散投資が促進されれば、成長分野への持続的な資金供給に資する効果がある。

 これらは、国としての意義や目的ですが、国民である私たちにとっての意義や目的は、「(1)生活スキルとしての金融リテラシー」を身につけることにあります。

 国民(消費者)として金融リテラシーを身につけることに関し、金融教育と消費者政策との関係を示した資料がありました。消費者政策は、消費者保護基本法(1968年)から消費者基本法(2004年)に改正され、2012年には消費者教育推進法が制定されてきました。これらの政策の基本的な考え方は、消費者保護から消費者自立、そして消費者市民という3段階で変わってきており、金融教育もそれに応じて、金融リテラシー(知識)から金融リテラシー(行動)、そして金融ケイパビリティ(行動+社会性)というように変化してきているというものです。

 このように私たちは、金融に関して単に知識を身につけるだけではなく、意識、技術、態度、行動といった総体が身についた「消費者市民」になることが求められているといえるでしょう。

金融教育コンセプトと消費者政策の三段階

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

金融リテラシー(知識)       消費者保護  消費者保護基本法(1968年)

金融リテラシー(行動)       消費者自立  消費者基本法(2004年)

金融ケイパビリティ(行動+社会性) 消費者市民  消費者教育推進法(2012年)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

資料)文献3のスライドより作成

●最低限身につけるべき金融リテラシーの全体像

 それでは、このような消費者市民になるためには、どのような金融リテラシーを身につけるべきなのでしょうか。

 金融リテラシー教育においては、金融や経済の知識の習得に加え、「健全な家計管理や生活設計の習慣化という行動の改善と適切な金融商品の選択というスキルが重視される傾向にある。」(文献1、P6)とされています。

 OECDや海外の例を踏まえて、わが国で生活スキルとして最低限身につけるべき金融リテラシーの全体像としては、以下の4分野(8分類、15項目)が取り上げられています。(文献1)

(1)家計管理(1分類、1項目)

 適切な収支管理の習慣を身につける。

(2)生活設計(1分類、1項目)

 自身のライフプランを明確化し、必要な資金を確保する必要性を理解する。

(3)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択(5分類12項目)

 「金融取引の基本としての素養」、「金融分野共通」、「保険商品」、「ローン・クレジット」、「資産形成商品」の5分類について、必要な知識、態度、行動等を身につける。

(4)外部の知見の適切な活用(1分類1項目)

 金融商品の利用にあたり、外部の知見を適切に活用する。

 これらの具体的な内容は、どのようなものでしょうか。

 「知るぽると」のサイト(https://www.shiruporuto.jp/public/)には、「一般の方」対象のページの中に「金融リテラシー講義資料・講座」が示されています。この中には、下記の【参考】に記載した3種類の教材が掲載されています。1つはeラーニング講座(2022年3月31日まで受講登録可能)で、他の2つは講義資料(90分授業1回分のものと90分授業15回分の2種類)です。

 金融リテラシーの全体像を理解するとともに、自分自身のリテラシーの過不足を理解するために、まずは大学1コマ90分用のモデル講義資料を見て自身の知識の状況を確認してみましょう。(なお、当該サイトの資料の利用上の注意がありますので、サイト内の記載事項を守って利用してください。)

【参考】「知るぽると」:「金融リテラシー講義資料・講座」

金融リテラシー 講師派遣・講義資料・講座 ─ データ資料室|知るぽると
データ資料室/金融リテラシー 講師派遣・講義資料・講座

・eラーニング講座:「マネビタ ~人生を豊かにするお金の知恵~」

・講義資料:金融リテラシー啓発用共通教材「コアコンテンツ」

~大学1コマ90分用の金融リテラシー・モデル講義資料~

・講義資料:大学半期15コマ用の金融リテラシー・モデル講義計画と講義資料

注)金融リテラシーにおいて、「リスク」という用語が、資産運用の分野、保険の分野、日常では異なる意味で用いられることに注意を促しています。保険の分野や日常では、「損失や危険の発生の可能性」という意味で用いられていますが、資産運用の分野では、「リターン(金融商品を一定期間保有した結果生じる収益のトータルを元本で割った収益率(マイナスの場合は損失率))の不確実性の度合い」とされています。(文献1)

【文献】

1.金融庁金融研究センター「金融経済教育研究会報告書」2013年4月

https://www.fsa.go.jp/frtc/kenkyu/20130430/01.pdf

(2022年2月4日閲覧)

2.「金融経済教育研究会・報告書の概要」(平成25年4月30日)

https://www.fsa.go.jp/frtc/kenkyu/20130430/02.pdf

(2022年2月4日閲覧)

3.「金融経済教育研究会 第1回 資料3(千葉商科大学大学院教授伊藤宏一氏資料)」2012年11年8月

https://www.fsa.go.jp/frtc/kenkyu/gijiroku/20121108/04.pdf

(2022年2月4日閲覧)

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