最近の読書(2022年2月)

●モーガン・ハウセル著、児島修訳「サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない『富』のマインドセット」ダイヤモンド社、2021年

 著者のモーガン・ハウセル氏は、ベンチャーキャピタルのパートナーで、投資アドバイスメディアやウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニストです。著者は2008年の世界金融危機が起きたころからファイナンスについての記事を書き始めたとのことです。そして、金融危機の問題はファイナンスでは説明できず、「お金との賢いつき合い方は、『人間心理』から学べる」(本書P11)という確信を得たとのことです。

 本書では、お金にまつわる20のテーマが取り上げられます。私自身が持っていたお金に関する常識が覆されることがあるだけでなく、世の中に流布されている事柄に対して新たな光が当てられ、これまでになかった気づきを与えてくれました。

 お金についての考え方は、人それぞれであるが、それは「誰もが、自分なりの直接的な経験をもとに世界に仕組みや成り立ちを理解している」(本書P24)からであるといいます。そして、「貯蓄」や「投資」は人類にとって新しい問題であるため、誰もが初心者であるという認識が示されます(第1章)。

 そして、「大切なのは、特定の個人や事例ではなく、もっと大きなパターンに注目することなのだ。特定の人物や事例を良い(悪い)手本にしようとするのは危険である」(本書P55)としています。大成功した個人には運の役割がとても大きいと考えられるといいますが、「運は、真似できない」(本書56)ものだからです(第2章)。

 次に、お金に対する考え方について、「足るを知る」=「『これで十分だ』という感覚を持つ」ことの重要性とそのための指針(第3章)、複利の効果(第4章)、「裕福になること」よりも「裕福であり続けること」が大切で、そのための考え方(第5章)が紹介されていきます。

 また、投資だけでなく企業の新製品等、「何であれ、莫大な利益を上げたり、特別に有名になったり、巨大な影響力を及ぼしたりするものは、『テールイベント』(数千から数百万分の1の確率で起こる例外的な出来事)の結果だと言える」(本書P109)という事実や「半分以上失敗しても、成功できる」(本書P117)ことが示されます(第6章)。

 次いで、富に対する考えが述べられていきます。「モノではなく、時間こそが人生を幸せに導く」(本書第7章P136)、「金に物を言わせて高級品を買っても、本人が思っているほど他人からの尊敬や称賛は得られない」(本書第8章P141)、「リッチ」と「ウェルス(富)」は異なり、富を築くことこそが大事だ(第9章)としています。

 富を築くためには、収入よりも貯蓄率が大切で、「収入-エゴ=貯蓄」(本書P158)であること(第10章)、「たとえ計算上は一番得をする方法ではなくとも、自分が納得のいく『合理的思考』を尊重すべきなのだ」(本書P166)と主張します。というのも、合理的に考えると、投資を長く続けやすくなるためで、このことが資産形成においてきわめて重要だからだとしています(第11章)。

 「私たちが驚くべき出来事から学ぶべき正しい教訓は、『世界にはサプライズが潜んでいる』ということなのだ」(本書P189)というダニエル・カーネマンの発言を引用しています。そして、投資の世界において「歴史から学ぶべきは『予測』ではなく『一般論』」(本書P197)であるとしています。では、お金についてどのように計画すべきなのでしょうか(第12章)。

 まず、「誤りの余地」の考え方が紹介されます。「不確かなものに対処する唯一の方法は、『こうなるだろう』と考えた出来事の範囲と、実際に起こり得る出来事の範囲のあいだに余地を設けて、失敗してもまた挑戦できる余力を残しておくことなのである」(本書P202)といる考え方です。投資で「誤りの余地」をつくるべき場面としては、ボラティリティ(価格変動リスク)と老後資金のための投資であるとしています。この考え方の正反対にあるのが、リスクテイキングにおける楽観主義バイアスですが、当然のことながら自分を破滅させるほどのリスクは取るべきではないとされています(第13章)。

 「人は将来の自分を予測するのが苦手だ」(本書P219)ということから、長期的なファイナンシャルプランを描く際の2つの留意点が示されています(第14章)。ボラティリティは投資に伴う代償であるが、「『罰金』ではなく『入場料』だと考える」(本書P237)ことが提案されています(第15章)。「投資においては、『自分がどれくらいの時間軸で投資をしようとしているかを忘れず、別のゲームをしている他人の言動に惑わされないこと』ほど大事な考え方はない。」(本書P251)として、自分自身の投資の「ミッション・ステートメント(行動指針)」(本書P252)を書き出すことを推奨しています(第16章)。

 次いで、人々はなぜ悲観主義が好きなのかを考察していきます(第17章)。「経済においてもっとも強い力を持つのは、“ストーリー”」(本書P279)であることを示します(第18章)。そして、これまでの紹介されてきた「お金についてより良い判断をするための普遍的な教訓」(本書P297)として14の教訓をとりまとめています(第19章)。

 最後に、お金に関することには正解は1つだけではなく、また、誰にでも当てはまる有効な方法などはない、だからこそ、「お金を管理する方法は、自分にあったものを見つけなければならない」(本書P308)として、著者本人に合った方法を参考までに紹介してくれています(第20章)。

 お金に関する考え方は、個人的な経験により大きな影響を受けていること、自分自身の将来の人生は自分自身が選ばなければならないこと、そして、他の個人の事例を手本にしてはいけないこと、等が示され、自らが自分に合った方法を見つけていかなければならないということを著者は強調しています。

 お金に対する考え方以外にも、成功のために多くのことにチャレンジするアメリカの経営者たちの考え(第6章)は、失敗したら復活できないのではないかと考えがちな我が国のひとり一人の考え方が変わる方向での取り組みの必要性を感じました。失敗するかもしれないが、あえてそれにチャレンジすることこそが成功につながるため、多くの国民がチャレンジしていく社会を目指していくことが求められるのではないでしょうか。

 「若い時にこのような書物に出会えていたら」と、少し残念な気持ちもありました。しかしながら、著者が勧めていることで、今からでも取り組めるものもあることから、できることに取り組んでいきたいと感じさせてくれた書籍でした。

第1章 おかしな人は誰もいない

第2章 運とリスク

第3章 決して満足できない人たち

第4章 複利の魔法

第5章 裕福になること、裕福であり続けること

第6章 テールイベントの絶大な力

第7章 自由

第8章 高級車に乗る人のパラドックス

第9章 本当の富は見えない

第10章 貯金の価値

第11章 合理的>数理的

第12章 サプライズ!

第13章 誤りの余地

第14章 あなたは変わる

第15章 この世に無料のものはない

第16章 市場のゲーム

第17章 悲観主義の誘惑

第18章 何でも信じてしまうとき

第19章 お金の心理

第20章 告白

===========

↓↓この記事で紹介した書籍はこちら↓↓

↓↓当ブログおすすめ書籍一覧はこちら↓↓

おすすめ書籍一覧

===========

コメント

タイトルとURLをコピーしました