今年度は、経済に関する“学び直し”を始めました。
2020年からのコロナ禍から社会生活や経済活動が回復していく中で、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う世界経済への影響も危惧されるなど、先々の見通しが立たない状況にあります。このような時期だからこそ、改めて経済について基本的な知識を再確認しておこうと考えました。
私が過去に経済学を学んだときは、サミュエルソンの「経済学」のテキストや日本経済新聞社の「ゼミナール日本経済入門」などを読みました。今回は、最近の経済学の全体像や基本的トピックスを理解するために、経済学を学び始める人のためのブックガイド、現在の経済状況を概観するために経済に関する基本的なデータの解説書を読むとともに、経済学の大筋について1冊にとりまとめた書籍を読みました。
●飯田泰之、井上智洋、松尾匡編「経済の論点がこれ1冊でわかる 教養のための経済学 超ブックガイド88」亜紀書房、2020年
本書は、「これから経済学を学び始めようとしている学生・ビジネスパーソンのためのブックガイド」(P002)として執筆されたものです。そして、経済学の「12の分野について、それぞれの研究分野の特徴を解説した上で、予備知識なしに読むことのできる入門書の概要を、そしてやや専門的な書籍については結局のところ何を主張しているのかを紹介することを通じ、『経済学と呼ばれる領域がどのような研究をしているのか』のイメージを持っていただきたい」(P002)としています。
取り上げている12のトピックスは、「景気」、「雇用」、「格差・貧困」、「国際経済」、「社会保障」、「人口減少・高齢化」、「地域経済」、「環境問題」、「先端技術」、「データ・統計」、「経済学史」、「経済理論」です。これらのトピックスについて、専門家による解説、入門書の概要及び専門書の紹介がなされていきます。
現時点における経済学の全体像の理解、それぞれのトピックスについての基礎知識や主要な書籍を把握し、自分自身の学習を進めていく上で役に立つ書籍でした。
【目次】
Discussion 経済学入門、最初の一歩
Book Guide & Summary 必読書88/ジャンル別要点まとめ
「景気」の読み方
働く人のための「雇用」の経済学
「貧困・格差」問題への道案内
「国際経済」から世界の趨勢を見る
経済学からみた「社会保障」の必要性
「人口減少・高齢化」問題の経済予想図
小さくても魅力あふれる「地域経済」の育て方
「環境と経済」を考えるためのレッスン
「先端技術と未来の経済」を予測する
「データ・統計」を用いて経済を把握する
なぜ「経済学史」を学ぶのか
スタンダードな「経済理論」を学ぶ
●宮崎勇、本庄真、田谷禎三「日本経済図説第5版」岩波新書、2021年
本書は、日本経済の全貌に関して具体的なデータを示しつつ記述したもので、日本経済に関する基本的なデータブックとなっています。また、著者の宮崎勇氏は、本書の執筆にあたっては、次の3点に留意されたとしています。
「第一は、歴史の流れの中で日本経済をとらえることである。(略)第二は、横断的に国際社会の中での日本経済を見ることである。(略)第三は、全体として整合的に日本経済を理解することである。」(P243-244)
本書では、11の分野について、それぞれ10項目が取り上げられ、各項目1ページ解説、1ページ図表の形式で執筆されています。日本経済について、歴史的、横断的、整合的に理解するという考え方がいたるところに配慮されている書籍です。私たちが日々出会う経済問題に対しては、まずは本書に基づき基本的な事実を理解したうえで、現実の問題がどのような構造となっているのかを分析し、自分なりの評価を行っていくことが重要でしょう。本書を机上において、常に参照できるようにして活用する書籍であるといえるでしょう。
【目次】
Ⅰ 経済発展の軌跡
Ⅱ 人口・国土・環境・国富
Ⅲ 日本経済の構造とその変化(1)
Ⅳ 日本経済の構造とその変化(2)
Ⅴ 情報通信の発展と情報化社会
Ⅵ 雇用・労働
Ⅶ 金融・資本市場
Ⅷ 財政
Ⅸ 国際収支
Ⅹ 国民生活
Ⅺ 日本経済の展望
●長沼伸一郎「現代経済学の直観的方法」講談社、2020年
著者の長沼伸一郎氏は、理工学部応用物理学科を卒業、大学院中退後、組織には属さず研究生活を送られているそうです。
本書の具体的なスペックは、「経済というものが全くわからず予備知識もほとんどない(ただし読書レベルは高い)読者が、それ1冊を持っていれば、通勤通学などの間に1日あたり数十ページ分の読書をしていくだけで、1週間から10日程度で経済学の大筋をマスターできる。」(P2)というものです。
本書の執筆にあたっては、「まず一体何冊分の本が必要かについて、それを明確に『9冊でOK』という形に絞り込む。そしてそれぞれの内容を『中間レベル』だけに的を絞ることで極限までコンパクトにしたのである。」(P3)としています。これは、「一般にどの分野でも、完全な初歩向けに易しい用語解説から始める入門書と、専門用語で埋め尽くされた高度な専門書は数多く出ているのだが、そこをつなぐ中間レベルの本というものがひどく少ないのである。逆に言えばそのレベルこそが物事の鍵なのであって、そこさえ押さえれば全体像が一発で把握でき」(P3)るからです。
本書は、この「中間レベル」の内容に絞って書かれた書物であり、経済学の基本的考え方を理解するのに大変有意義な書籍でした。
【目次】
第1章 資本主義はなぜ止まれないのか
1 資本主義の中枢部を解剖する
2 「経済社会の鉄道網」と資本主義の恐ろしく不安定なメカニズム
3 文明社会はいかにしてそれを選択してきたのか
第2章 農業経済はなぜ敗退するのか
第3章 インフレとデフレのメカニズム
第4章 貿易はなぜ拡大するのか
1 貿易のメカニズム
2 貿易の歴史
第5章 ケインズ経済学とは何だったのか
第6章 貨幣はなぜ増殖するのか
第7章 ドルはなぜ国際経済に君臨したのか
1 ドルから見た国際通貨
2 過去の国際通貨はどうだったか
第8章 仮想通貨とブロックチェーン
第9章 資本主義の将来はどこへ向かうのか
1 「縮退」という大問題
2 われわれはどうしてこんなに大きな誤解をしてきたのか
3 経済世界に縮退を止められる力は存在するか
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