●橋爪大三郎「人間にとって教養とはなにか」SB新書、2021年
著者は社会学者で、東京工業大学で教鞭をとられていました。本書は、近年関心の高まっている「教養」について考察した書籍です。
著者は、前書きで「なぜ教養を身につけるのか」(本書P4)について、「まず第一に、自分のため。教養が身に着けば、満足する。自信がつく。ものごとを学ぶのが楽しい。そうやって前向きに、学びを深めます。」(P4)としています。
「教養は、自分のためだけ、で終わりません。その先があります。大勢の人びとが、めいめいこうやって教養を磨き、深めていくと、そこから相乗的な効果が生まれます。言論が活発になる。活字文化が元気になる。投票率も高くなる。その結果、政治の質が高まります。民主主義がほんものに一歩近づきます。」(P4)
「教養は、自分のため。それから、社会のためにもあるのです。」(P5)とし、「教養原論-教養の歴史」を紐解いていきます。
「明治の日本はなぜ、近代化できたのか」(P5)、「武士とは何だったのか」(P7)、「教養の原点はルネッサンス」(P9)、「世俗の学問が現れた」(P11)「自然科学をめぐるバトル」(P13)、「聖書の翻訳」(P14)、「活字文化の誕生」(P15)、「音楽と美術」(P15)、「教養の誕生」(P16)、「啓蒙思想」(P17)、「フランス革命がもたらしたもの」(P18)、「民主主義の時代」(P19)、「近代社会と自由」(P21)、「言論と商業主義」(P21)といった「教養」の歴史を紹介されます。
そして、「教養はばらばらでよい」(P22)として、「教養は、まず自分のためにあるのでした。どんな教養を身につけるかは、自分の勝手です。でも教養は、自分の狭い範囲を超えていくためにあります。」(P22)、「つまり教養とは、ひとりの範囲で完結するものではなく、同時代のおおぜいの人びとに関心をもつことなのです。そして、自分を客観化し、自分と社会の関係を見つめてより正しい解決を選び取る助けになるのです。」(P23)
本書では、上記の「教養原論」をもとに、第1章から第6章までの各論が述べられていきます。教養に係る社会環境が大幅に変化してきている時代であるからこそ、教養に係る各論について、自らの考え方を身につける努力が求められます。また、家族や地域社会、国家、さらには世界の役に立つ教養は何か、といった観点も身につけていくことが大切でしょう。
本書を読んで、自分自身の教養をアップデイトするとともに、できる範囲内で社会への関心を持ってみることが求められるでしょう。
【目次】
第1章 今こそ伝えたい、教養の価値
第2章 人生がたのしくなる教養の身につけ方
第3章 なぜ、本を読むべきなのか
第4章 辞書・事典でしか学べないこと
第5章 知性を磨くネットとの付き合い方
第6章 「深い人」のほんものの教養
●ダニエル・カールマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン、村井章子訳
「NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?(上)」早川書房、2021
「NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?(下)」早川書房、2021
著者の1人であるダニエル・カールマン氏は、認知心理学者であり、意思決定論及び行動経済学を専門とし、2002年にノーベル経済学賞を受賞されました。本書は行動経済学の第1人者である著者らによるNOISE(ランダムなばらつき)に注目することの重要性とノイズを減らすための方策について語られていきます。
「本書が扱うのはヒューマンエラーである。バイアスすなわち系統的な偏りと、ノイズすなわちランダムなばらつきは、どちらもエラーを構成する要素だ。」(上巻P10)であり、「判断のエラーを理解するには、バイアスとノイズの両方を理解することが必要になる。」(上巻P12)としています。
「第1部では、ノイズとバイアスのちがいを検討し、官民を問わずあらゆる組織にノイズが多いこと、ときには衝撃的に多いことを示す。」(上巻P15)とし、著者らが導入した「ノイズ検査」も紹介されています。
「第2部では、人間の判断とはどういうものかを分析し、その精度や誤差をどのように計測するかを検討する。」(上巻P16)とし、「同じ人や同じ集団が同じケースについて下す判断に、その時々でばらつきが出ることがある。」(上巻P16)が、このばらつきを「機会ノイズ」(上巻P16)と呼ぶ。
「第3部では、予測的判断を集中的に取り上げ深く掘り下げる。」(上巻P16)とし、「予測的判断の質には限界があること、客観的無知とノイズによって予測精度が大幅に下がることも論じる。」(上巻P16)
「第4部では人間心理に立ち戻り、ノイズが生じる根本原因を検討する。」(上巻P16)として「人はなぜノイズに気づかないのか、予測できるはずもない出来事や判断に直面しても『起こるべくして起きた』と受け止めやすいのはなぜかも併せて検討する。」(上巻P16)
「第5部では、判断を改善しエラーを防ぐという実際的な問題に取り組む。」(上巻P17)とし、「衛生管理の理念を取り入れた対策パッケージ『判断ハイジーン』」(上巻P17)や「複数の選択肢を比較評価するときに汎用的に使える評価支援ツールとして、『媒介評価プロトコル』」(上巻P17)が提案されています。
最後に「ノイズの適正水準はどの程度なのか。第6部ではこの問題を扱う。」(上巻P17)としています。
本書は、人間の判断に係るNOISE(ノイズ)に関して、1~6部でそれぞれ豊富な具体例を示すととともに、実際に適用された改善策も提起されています。組織におけるNOISEに着目した業務の見直しが求められる場面も予想されることから、各人がそれぞれの部署での問題の有無をまずは確認してみることが求められるでしょう。
【目次 上巻】
序章 二種類のエラー
第1部 ノイズを探せ
第1章 犯罪と刑罰
第2章 システムノイズ
第3章 一回限りの判断
第2部 ノイズを測るものさしは?
第4章 判断を要する問題
第5章 エラーの計測
第6章 ノイズの分析
第7章 機会ノイズ
第8章 集団によるノイズの増幅
第3部 予測的判断のノイズ
第9章 人間の判断とモデル
第10章 ルールとノイズ
第11章 客観的無知
第12章 正常の谷
第4部 ノイズはなぜ起きるのか
第13章 ヒューリスティックス、バイアス、ノイズ
第14章 レベル合わせ
第15章 尺度
【目次 下巻】
第4部 ノイズはなぜ起きるのか(承前)
第16章 パターン
第17章 ノイズの原因
第5部 より良い判断のために
第18章 よい判断はよい人材から
第19章 バイアスの排除と判断ハイジーン
第20章 科学捜査における情報管理
第21章 予測の選別と統合
第22章 診断ガイドライン
第23章 人事評価の尺度
第24章 採用面接の構造化
第25章 媒介評価プロトコル
第6部 ノイズの最適水準
第26章 ノイズ削減のコスト
第27章 尊厳
第28章 ルール、それとも規範?
まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める
終章 ノイズの少ない世界へ
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