【読書ノート】『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(1)

 本ブログのテーマであるリテラシーに関連して読んだ書籍の紹介をします。書籍内容全体の紹介というよりはリテラシーの観点から注目すべき点を紹介していきたいと思います。

 本書(『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』汐見稔幸、河出新書、2021)は、現代の学校という教育の場は人類史的に特殊な教育環境であるとの認識のもと、「教育」の原理を「教え」から「学び」に転換することを提案し、学びについて多面的に検討している書籍です。

 著者の 汐見稔幸氏は、東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事で、教育学、教育人間学、保育学、育児学を専門とされています。(参考資料1より)

 本書の「第1章 なぜ、いま教育がいきづまっているのか」では、「学び」の意味を問い直すことが必要だとしています。

 「これまで、『学校教育』によって身につけるべきとされてきた『学力』の内容の多くは、『学び』という視点から見ると、人間に必要な知性とはやや異なっていたと私は考えています。『学び』は学校でのみ身につけられるようなものではなく、一生続く営みです。人間は死ぬまで学び続けます。そうした学び方の基礎を学校教育は育ててきたか、というと疑問が多々浮かびます。」(本書P18)

 「これまで私たちは『なぜ人は学ぶのか』という根本的な問いについてしっかりと挑んできませんでした。効率のよい『教え方』や『学び方』の手段についてはあれこれ研究されてきましたが、なぜそれを学ぶのかという最も大事な問いについてはとばしてきてしまった印象があります。」(本書P19)

 「『先の見えない』なかで生きていく上で大事な力は、正解を効率よく覚えて短時間で再現できる力ではもちろんありません。」、「では、なぜ学ぶのか。それを問い続けていくことこそが、学ぶ目的といえます。」(本書P20)としています。

 「なぜ人は学ぶのか」という問いに対しては、「自分の自己実現」と「社会の自己実現」をつなげて考えることが大事だとして、以下のような考えを示しています。

 「・『自分の自己実現』にため、自分が『何をしているときに生き生きするか』を見つけるために学ぶ。

・『社会の自己実現』のため、『どうすればみんながいい顔をして生きていける社会にできるか』を見つけるために学ぶ。

・『そこにどう自分が関わることができるか』を見つけるために学ぶ。」(同書P27)

 「第2章 『教え』の教育から『学び』の教育へ」移行してきた理由として、「『これさえ覚えておけば正しく生き、いい社会をつくる力を身につけることができる』と確信をもてるものがなくな」り、「教師が子どもたちに啓蒙する教育の時代が終わった」(本書P46)ということについて、その移り変わりを記載した後、「これからの世代に必要とされる能力」(本書P58)、「21世紀型スキルの重要性」(本書P60)が紹介されています。

 「これからの世代に必要とされる能力」については、OECD(経済協力開発機構)が1997年から始めたDeSeCo(コンピテンシーの定義と選択)プロジェクトで定義された「3つのキー・コンピテンシー」が紹介されています。

 このプロジェクトでは、「豊かで責任ある人生につなげ、現在や将来の課題に対応していくためには、どのようなコンピテンシーが必要になるのか」というテーマが掲げられ、以下の3つのおおきな柱があげられています。

・異質な集団で交流する力

 (A他者とうまく関わる、B協働する、C紛争を処理し、解決する)

・自律的に活動する力

 (A大きな展望の中で活動する、B人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行する、

  C自らの権利、利害、限界やニーズを表明する)

 ・相互作用的に道具を用いる力

  (A言語、シンボル、テクストを相互作用的に用いる、B知識や情報を相互作用的に用いる、C技術を相互作用的に用いる)

 そして、これらの「3つの柱とともに、『思慮深さ(Reflectiveness)』を身につけることがとても重要だとされています。」(本書P59-60、なお書籍では図で表現されていますが、ここでは文章で記述しています。)

 この提案を1つのきっかけとした21世紀型スキルに関する提言が2つ紹介されています。

 1つ目のものは、アメリカの官民共同での幼稚園から高等学校までの教育内容の見直しをおこなったP21と呼ばれる検討会での「3つのR(読む力、書く力、計算力)と4つのC(批判的思考力、コミュニケーション、協働性、創造性)」(本書P61)です。

 2つ目のものは、ATC21sによる21世紀型スキル(4つのカテゴリーと10のスキル)で、「思考の方法(1.創造性とイノベーション、2.批判的思考・問題解決・意思決定、3.学び方の学習・メタ認知)、働く方法(4.コミュニケーション、5.コラボレーション(協働性))、働くためのツール(6.情報リテラシー、7.ICTリテラシー)、世界の中で生きる(8.地域とグローバルの良い市民であること、9.人生とキャリア発達、10.個人の責任と社会的責任)」(本書P61-62)があげられています。

 この21世紀型スキルを学ぶ前に、マインドセットの組み換えが必要であると著者は言います。「世界で次々に起こる問題を解決できないのはなぜか。それは、その問題をつくってしまった時代の思考の枠組みと変わらない思考の枠組みで問題を解決しようとするからです。」(本書P70)

 第2章まで見てきましたが、これからの時代に必要とされる能力は、その基盤として『思慮深さ(Reflectiveness)』を身につけることが大事だとされています。その能力を発揮していく上で必要となる姿勢を併せて身につけなければならないのです。

 そして、21世紀型スキルが発揮されるためには、新たな思考の枠組みにマインドセットを組み換えていかなければならない。

 リテラシーについて考えていくに際しては、この2点を肝に銘じておく必要があるでしょう。

 本書は全6章から構成されており、第3章以下にも示唆に富む内容が多々述べられています。自身の学びを深めていく人にとって必読の書籍といえるでしょう。

【参考資料】

(2021年11月15日アクセス)

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